イントロダクション

1961年、人類史上最悪の惨事であるホロコーストの真実を暴いた“世紀の裁判”がTVを通じて世界中に放映された――。

強制収容所解放70周年を記念して制作された作品『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、世界が震撼したナチスの戦犯アイヒマンを裁く“世紀の裁判”の制作・放映の裏側を描くヒューマンドラマである。世界がホロコーストを理解するための出発点となった、世界初となる貴重なTVイベントの実現のために奔走した制作チームの情熱と葛藤、信念の物語。これまで一度も語られることのなかった衝撃の実話が今、スクリーンに再現される。

1961年、イスラエルのエルサレムでは、歴史的な裁判が開かれようとしていた。被告は、アドルフ・アイヒマン。第二次世界大戦下のナチスの親衛隊の将校であり、“ユダヤ人問題の最終的解決”、つまりナチスによるユダヤ人絶滅計画(ホロコースト)を推進した責任者である。15年による逃亡生活の果て、アルゼンチンで身柄を拘束されたアイヒマンは、イスラエルに移送されエルサレムの法廷で裁かれることになった。


このテレビ放映権を獲得したのが、アメリカの若き敏腕プロデューサー、ミルトン・フルックマンである。「ナチスがユダヤ人になにをしたのか、世界に見せよう。そのためにTVを使おう」


TVというメディアに関わる者として、フルックマンは強い使命感に駆られていた。彼が監督に指名したのは、才能があるにも関わらず、反共産主義に基づくマッカーシズムの煽りで職を失っていた米国人ドキュメンタリー監督レオ・フルヴィッツ。悪名高きナチスの戦争犯罪人の素顔を暴くためには、一流のスタッフが必要だった。


政治の壁、技術的な問題、さらにはナチの残党による脅迫などさまざまな壁を乗り越え、撮影隊は裁判の初日を迎える。それから4ヶ月間、フルヴィッツらによって撮影された映像は、世界37カ国でTV放映された。アメリカの3大ネットワークでも放映され、イギリスのデイリーニュースは速報で伝えた。ドイツでは人口の80%がこの放映を観たといわれている。
アイヒマンが悔恨の情を垣間見せることなく淡々と罪状を否定する様子が映し出され、112人に及ぶ証人が生々しくホロコーストの体験を語った。この世のものとは思えない残酷な実録映像も証拠として流された。


世界を揺るがせたアイヒマン裁判のTV放映は、まさにその後世界が知ることになるホロコーストの真実が、映像として明るみに出た最初の瞬間だった。


『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、歴史的TVイベントを成功させたテレビマンたちの熱きドラマであると同時に、実話に基づいた歴史映画としても貴重である。


映画の中では、実際の裁判のモノクロの記録映像や強制収容所内の衝撃的な映像も使用されている。映像によって見せることで、単に書物で読んだり、耳で聞いただけよりもずっとリアルにホロコーストの実態が伝わり、人々の心に響く。フルックマンのこの考えは、今日でも有効で、戦後、70年経った今でもそれらの実録映像は私たちの胸に深く突き刺さるに違いない。


気骨ある若手プロデューサー、フルックマンを演じたのは、BBCによるヒットドラマ『SHERLOCK/シャーロック』でベネディクト・カンバーバッチ演じるホームズの相棒ワトソン役を演じて大ブレイクしたマーティン・フリーマン。アイヒマン裁判の裏側で起こっていたドラマを、このプロジェクトを通じて初めて知ったというフリーマンは、脅迫に決してひるむことなく、持ち前の機転と信念によって困難を乗り越えて行く、現実的なテレビマンを真実味をもって演じることに成功している。